VOL.031 エピローグ
アイアンワンはピンピンコロリ!
我が家でいちばんのお騒がせ犬BINGO!が旅立った…
ディスクドッグが創成期から成長期に入りかけた世紀末2000年11月に生を受け、さすがに直近2年ほどで年相応に老いを重ねてきてはいたが、特に病気も怪我もなく穏やかに過ごしてきた。それが16歳を迎えた翌月の12月、あっという間に天に召されていった…いや、天に突っ走って行ってしまったと言うべきか…16歳と20日、大往生であろう。
2012-13シーズン、我が家のBINGO!が“アイアンワン 10年目の挑戦”と題し、ひとつの企画としてスタートを切った。この年、私は全身全霊で6ポイントを投げることに徹し、それに齢12を数えた彼女は健気に応え、ジャパンカップ10年連続出場を成し遂げた。既に、この頃になると、ジャパンカップタイトル奪取を狙うことは目標ではなく、ジャパンカップに出場することが最終目標となっていた。しかし、企画を終えた翌2013-14シーズン、更に追い足の衰えを見せつつも、彼女はスーパークラスでもう一度ジャパンカップノミネートを勝ち取ったのだった。連続11回出場、これは未だに誰にも抜かれない私が自慢できる唯一無二の記録である。
2012-13シーズンの企画で書き記した通り、奴は余りにも多くの人犬を巻き込んでの事件を引き起こし、数多くのエピソードを残していった。子犬のころからスキンシップが嫌いで、家族でも体を触らせない、おやじ(私のこと)に近づく人・犬を威嚇する、先住犬にもおもちゃは譲らない、ゲームでディスクは離さない、ジャッジに襲い掛かる、表彰台で飛び掛かる…何しろ数えきれない悪癖のオンパレードのような犬だった。それでも、競技犬としては全く動じない強い気持ちと、何が何でもキャッチをするという気迫は稀にみる逸材だったと今だから感じ取れる。これは天才・頑強犬と私が決めつけている野呂瀬パッセ、小泉マユ、森ミーシャ、木田カルーアミルク、望月フライといった名犬たちにも引けを取らないと思っている。
晩年はベテランズクラスに籍を移し、ディスクを楽しむ余生としてきたが、それも2015-16シーズンでのベテランズクラスに選んでいただき、それをもって引退させる決意だった。更には“さくら賞”という彼女には絶対にありえないと思っていたベテラン犬の最高勲章をいただくことが叶い、彼女のディスクドッグとしてのキャリアは最高の形で終えたつもりでいた。
しかし、16歳の誕生日が浜名湖大会と重なることを意識した時、引退宣言を撤回して一度きりの復活をさせたいという気持ちに歯止めがかからなくなった。この出場についてはやめてくれと×美(私の嫁)に強く言われていたが、独断で車に乗せ、道中発覚してから浜名湖に着くまで、×美と大喧嘩をしながら参加に至った。大会当日は、実に多くの皆さんがコートサイドに駆けつけてくださり、BINGO!に声援を送ってくれた。出番前、練習も含めて半年ぶりに私が煽るディスクに目に光が灯り反応を見せる姿に、もしかするとキャッチできるかもと臨んだラウンドで、ライン際ではあるものの、何と4本もキャッチをしてくれたのには本当に驚くと共に、一番遊んでいた場で一番好きなおもちゃなんだろうな…と本当に嬉しくなった。ゲームを終えた彼女に駆け寄ってくれ、笑顔はもちろん、涙まで見せてくれた方々、本当にありがとう。
このラウンドできっとBINGO!は大満足だったのだと思う。帰宅後もその余韻を楽しむかのように2日間ほどは本当に元気を取り戻したように部屋を小走りに移動したりしていた。アイアンワンと呼ばれていたことなど彼女は知る由もないが、その快活ぶりを取り戻して完結したかったかのようだ。
BINGO!、お前を制御するのは現役の時から無理だったけど、最後まで俺を無視して自分のペースで逝っちまったな。でも、そんなお前のことが大好きだったんだよ!ありがとう、お前が傍に居てくれたことに…
追伸 BINGO!に少なからず迷惑、何らかの被害を受けた皆様、免罪とは言いませんが、彼女の悪行を一緒に飲みながら笑い飛ばしていただいてありがとう。奴に関わってくれたすべての皆様、時間を共有してくれた家族に感謝します。
年老いてゆく犬たちが、みな幸せな時間をその家族とより多く過ごせますように。